ノゾミ

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ノゾミ

 ヨツハに人間と認識された影響か、私にかかっていた呪いは、日を追うごとに弱まっていった。あれから数ヶ月経った今では、無くしたはずの人の形を取り戻しつつある。  獣となる前の記憶は殆ど無くなってしまったが、特に不満でもなかった。何せ、人間が獣になる程の出来事だ。ろくな記憶ではないだろう。それに私には、ヨツハがいる。過去など思い出せなくても、余りある幸福感に包まれていた。  ヨツハから"ノゾミ"という名を貰った。東方の国の言葉で、願望という意味のその名は、色の存在しなかった、私の世界を色とりどりに着彩していった。    その後、私が長い闘いに身を投じる事になるのは、ヨツハと立ち寄った村で、彼女と出会った、あの日からだった。
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