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師と弟子と
ヨツハが旅を続けているのは、この国のどこかにいるという"赤華のミカヅキ"なる人物に再会し、弟子入りする為との事だった。
ミカヅキはヨツハがまだ幼い頃、人並外れた魔力量を持ち、暴走しかけた際に能力制限の呪文をかける事で、彼の命を救った恩人だという。その後、姿を眩ませた彼女を探し出し、正式に弟子入りを果たす為に旅を始めたらしい。探し出す手掛かりは、彼女の異名にもなっている深紅の髪くらいだが、先日立ち寄った村で目撃情報を得たのだった。
目撃情報を頼りに辿り着いたのは、コクロネという名の村だった。
「…行こう。ノゾミ。」
ヨツハは、村に入る時点で見るからに緊張していた。目撃情報によると、その"炎のような髪の女"は村の酒場によく出没しているらしい。
酒場の木製扉をゆっくりと押し開ける。途端に強烈な酒の匂いで、頭がクラクラした。酒場のカウンター付近に人だかりが出来ており、何が行われているかは確認出来ないが、何やら盛り上がっている。ヨツハと共に人だかりを押し除け、中心を覗くと
身の丈2m以上はあろうかという、巨漢とスラリとした長身の女性が酒の飲み合いを行っていたのだ。周囲には無数の樽やコップなどが散乱している。
顔が赤を通り越して青になっている男に対し、涼しい顔で酒を口に運んでいるその女は、作り物の様な整った顔立ち、そして"真紅の髪"をしていた。
「…お久しぶりです。師匠。」
ヨツハが遠慮がちに声をかける。
「む?お前…ヨツハか?」
「…はい。お久しぶりです。」
彼女は、私の方をチラリと見ると一瞬驚いたような顔をした。が、すぐに元の涼しげな顔に戻る。
「久しぶりだな。ちょっと見ない間に随分背が伸びたんじゃないか?それに、女連れで師匠に挨拶とは。随分偉くなったものだな。」
ヨツハの顔から血の気が引く。「まぁいい。」とミカヅキはふわりと席を立つと、向かいに座っている顔の青い男へ、一言
「私の勝ちだ。」
凛とした声でそういうと、代金も支払わずそのまま店の出口へ向かった。どうやらお互いの酒代を掛けた勝負だったらしい。あの男、気の毒に…
店を出ると、ミカヅキの宿泊している宿でゆっくり話そうという事になり、3人並んで向かう事になった。
「遠慮するな。」
ミカヅキに通された部屋は、ひどい有様だった。魔術関連の資料だろうか、書物や紙が散乱し、使ったままと思われる食器類がテーブルに積んである。何より目を引くのは、玄関から部屋まで大量に落ちている酒の空瓶だ。
「…相変わらず、お変わりないようで安心しました。」
ヨツハはこの光景を予測していたのだろう。さほど驚いた様子はない。
ミカヅキは、椅子の上に積んであった書物類を床へ落とし、そこへ座るとヨツハの目を真正面から見る。
「さて、私の所へ辿り着いたという事は"課題"は達成してきたのだろうな。」
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