ママ・ゲシュタルト

母は、
床に脱ぎ捨てられた靴下の塊を指差して、
父を睨み、
私あなたのお母さんじゃないのよ！
と叫んだ

父は、
おれはな、お前のな、
お母さんでもなんでもないんだからな、
と、ブツクサつぶやきながら
猫のトイレを掃除した

あるとき母が、
理由は忘れた小言の台詞の中に
さらっと入れ込んできた
私はあなたのお母さんでもあるんだから
の「も」は、
まだしも、

まあまあのアンニュイな態度で、
あなたは私のお母さんでもあるのよねー
と、おれに言う「も」の意味が、
わからない

着ないんなら私が着るわよと、
勝手に着ている姉貴のお下がりの
ボヘミアンズのオールインワンが妙に似合う
「母」
という漢字を
目を凝らしてみつめていると

だんだんと
バラバラの点々や線や図形にみえてきて、
あげく、
のれんをくぐって片足でケンケン歩き出して
進行方向は左
卵、え、いちご?　って?
となって

ついに
母の意味は
ゲシュタルト崩壊した

（おわり）