知りたい気持ち

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 翠さんがどういう女性かは知らない。  仕事のできるバリバリのキャリアウーマンなのかもしれないし、少しドジな可愛い女性なのかも。  (みどり)という名前からくるイメージというものはあって、森林浴でマイナスイオンを浴びているような爽やかな人なんじゃないかと勝手に想像している。  それを言ったら、私なんて柚子風呂に浸かってになった菜っ葉のイメージなのかもしれないけれど。 「実は今度雑誌の仕事で作家と対談することになってて、その対談の場所に実家はどうかって言われてたんだ」  吾郎くんが全く予想外のことを話しだしたので驚いた。てっきり翠さんから告白をされたのかと思ったのに。 「実家って長野の?」 「うん。うちの寺は宿坊もやってるから、作家に本物の精進料理を食べてもらった後で対談するという企画らしい。もちろん僕の両親や兄夫婦にも全面的に協力してもらうことになるし、泊まりがけの仕事になる」 「泊まりがけ……」 「うん」  翠さんも一緒に泊まるということか。  でも、吾郎くんの実家に泊まるなら、ホテルと違って間違いは起きないだろう。  だから、私が今モヤモヤしているのは、翠さんのことじゃない。  兄嫁の優子さんのことだ。 「仕事とはいえ、翠さんは女性だから柚子ちゃんが気にするのも無理ないと思う。けど、泊まりの仕事なんてこれが最初で最後だろうし、他のスタッフたちも一緒だし。何より僕の実家だから、柚子ちゃんを不安にさせることはないと思って引き受けたんだ」  黙って頷く。吾郎くんはプレ恋人だった私の気持ちをちゃんと考慮してくれていたんだ。  吾郎くんの自宅で撮影があるという話も、自分では平気な顔を装っていたつもりだったけれど、彼には私の不安はバレバレだったのかもしれない。
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