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「どうして、来てくれたんですか? 理玖は?」
「理玖は実家に預けてきた。ここに来たのは……」
理一さんが、一度言葉を飲み込んでベッドに座ったままの私の顔をじっと見つめる。
「ここに来たのは、おれが未知に会いたかったからだよ」
私たちの様子を少し見守っていた母が、理一さんの言葉を聞いてから部屋を出ていく。
パタンと小さな音を立ててドアが閉まると、理一さんが少し切なげに目を細めて微笑んだ。
「おれが、未知に会いたかった」
ふたりきりになった部屋で、理一さんがもう一度繰り返す。その言葉に、胸が詰まった。
私は……。理一さんのことが信じられなくなって、彼と向き合うことができなくて逃げてきた。
それなのに、理一さんの顔を見て声を聞けば、熱い感情が込み上げてきて。心の奥にある本当の気持ちを隠せなかった。
勝手に逃げ出して、終わりにしてはダメだ。私はまだ、理一さんのことが好きだから。
「私も、会いたかったです……」
震える声でそう言うと、歩み寄ってきた理一さんが上からがばっと私のことを抱きしめた。
こんなふうに理一さんに抱きしめられるのは、1ヶ月以上ぶりかもしれない。
「ごめんなさい、連絡しなくて」
理一さんのパーカーの胸元をつかむと、ぎゅっと強く抱き寄せられる。
ひさしぶりに包まれた理一さんの腕の中は、最後に抱きしめられたときの記憶よりもずっと温かかった。
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