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「亡くなった奥さんも、理玖を妊娠してたときに同じ感じでしたか?」
「いや。たぶん彼女はそんなにひどくなかったんじゃないかな。塩辛いものが食べたいとはよく言ってたような気がするけど、未知みたいに自分の意志とは関係なくいつの間にか寝ちゃってるってことはなかったし、ご飯が食べられなかったり、吐き気がすることもほとんどなかったみたいだよ」
「え?」
「そりゃ、気付くよ。未知が体調悪そうにしていることくらい。おれが気付いてないと思ってた?」
理一さんの前では、なるべく体調の悪さは見せないようにしていたはずなのに。目を見開く私を見て、理一さんがふふっと笑った。
「明らかに毎日具合が悪そうなのに未知が隠してるみたいだったから、勝手に調べた。そうしたら、症状的にもしかしてつわりなのかな、って。経験からの予測じゃないよ」
理一さんは私の考えを読み取ったようにそう言うと、私の頬に左手を添えた。
「未知が体調不良を隠してたのも、何も言わずに家から出て行ったのも、おれのことが信じられなかったからだよね。おれが、亡くなった彼女のことを未知に隠してたから。よかれと思ってしたことが、余計に未知を傷付けてたね」
理一さんが切なげな目をして苦く笑う。
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