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「大事なことははっきりと言わないと伝わらないんだって、今回のことでよく思い知らされたから」
理一さんが、私の額に唇を押し当てたまま苦笑いする。
「また未知に黙って逃げられるようなことがあったら、生きた心地がしない……」
理一さんが切実そうにつぶやくのを聞いて、本当に心配をかけたのだということがよくわかった。
たぶん彼は、私が自覚していたよりもずっと、私のことを想ってくれている。
「もう、逃げないようにします」
「……ようにするの?」
「逃げません」
不満げな声で訊ねてきた理一さんに断言すると、優しく微笑んだ彼が1カ月以上ぶりに私の唇にキスをした。
ちゅっと音をたてて何度か啄むようなキスをしたあと、理一さんが脱力するように私の肩にストンと頭を預けてくる。
「どうしよう」
「え?」
「未知にキスするの、ひさしぶりすぎてなんかヤバい」
理一さんが独り言みたいにそう言って、私の手を彼の左胸に押し付けた。
「誕生日の夜に未知の気持ちを知ってから、おれが何をしても全部疑われるんじゃないかと思って。そう思ったら、未知に触れるのが怖かった」
私の手のひらの下で、理一さんの左胸がドクドクと早鐘を打っていた。
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