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その日の夜。理一さんが亡くなった奥さんの写真が入った写真立てを出してきた。
「ママのこと、だすの?」
「うん、隠してたら良くないと思って」
リビングの仏壇の前に置かれた写真立てを見て首を傾げる理玖に、理一さんが小さく頷く。
理一さんが出してきた写真立ては、私が来る前はずっとそこに飾られていたらしい。
「今まで不自然に隠しててごめん。写真を隠してたのは、彼女に似てるから未知を選んだって、万が一にも君に誤解されるのが怖かったから」
「え?」
「でも、変な裏工作したせいで、結局未知を傷付けることになった。本当にごめんね」
唖然とした顔で理一さんを見つめると、彼が不安そうに眉尻を下げた。
「誤解されないように言うけど、これを出したのは未知に余計な不安感を与えたくないからだから。彼女のことを未知に重ねたりしてるわけではないよ」
「わかってます」
不安顔で必死に訴えかけてくる理一さんに笑いかける。
亡くなった奥さんの写真がないという奇妙な不自然さは、理一さんなりに考えてくれてのことだったらしい。彼自身、良かれと思った気遣いが裏目に出るなんて思っていなかったのだろう。
「改めて見たら、全然未知とは似てないね」
写真立てに視線を向けた理一さんが、ぼそりと呟く。
そう言われてよく見ると、そこに写る彼女と私はなんとなくパッと見た雰囲気は似ているものの、よくよく見れば、全くの別人だった。あたりまえだけれど。
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