28人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
現在
一月一八日。
現在、午後七時。
テレビでよく見るシーンよろしく、立花優菜は前髪を人差し指でくるくると弄び、名探偵になった気分に浸っていた。
「ひねくれ者のお前にお似合いだな」とよく男子にバカにされるこのうねりひん曲がった天然パーマも、こういう時は様になるから悪くない。
さて。
優菜探偵は慎重派である。捜査の前に、まずは状況確認をしよう。
お母さんは夕方からずっと、キッチンの中を忙しそうに動き回っている。
脳が蕩けそうになるバターの香ばしい匂い。これは彼女が今、ステーキ肉をフライパンで焼いている証拠だ。
加えて、さっき冷蔵庫から取り出した怪獣のような巨大海老が、未だ未処理の状態で、まな板の上からこちらをじっと見つめている。
あの様子なら、まだしばらくは調理に時間がかかるはずだ。
お父さんの方は……どうせ、八時ぐらいまでは帰って来ないだろう。
なぜなら今日は一月一八日。つまり、優菜の誕生日だから。
毎年この日に限ってお父さんは帰宅が遅い。「残業があって」なんて誤魔化しているけれど、一四回目ともなればさすがに嘘だとわかる。
今頃どこで何やってるんだか……まぁぶっちゃけこの名探偵優菜、ほぼ勘付いてるんだけどね。
とにかく今、この家に優菜の邪魔をする者はいない。
チャンスだ。
抜き足、差し足、忍び足。
探偵というよりはむしろ泥棒のような所作で、優菜は静かに二階へと上がり、お父さんの書斎に忍び込む。
お父さんの帰宅が遅い理由……浮気の証拠を、今宵、必ず掴んでみせる。
最初のコメントを投稿しよう!