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現在
優菜はとにかく、目の前の現実から目を背けたかった。探偵ごっこなんてやろうと思った、十数分前の自分を叱ってやりたい。
「なーんてねっ! 引き出し閉めて開けたら、無くなってるんでしょ?」
そんな馬鹿げたことを独り言ちて、何度かガタガタやってみたけど、何度やっても引き出しの一番手前に、デーンとそれは鎮座している。
無警戒にもほどがある置き方は、まるで悪いことをしたとも思っていないようで、逆に清々しさすらも覚えた。
捜査開始直後、あまりにも呆気なく見つかった、浮気の証拠物。
ほんの出来心が生んだまさかの悲劇に、優菜はしばらくの間、放心したように立ち尽くしていた。
「ただいま」
玄関から聞こえたお父さんの声で我に返った。いつのまにか帰ってきていたらしい。ついで、夫を出迎える甲斐甲斐しい妻の、パタパタという足音が聞こえた。
優菜もまた、机の中の写真を引っ掴んで玄関へと向かう。
「ただいま優菜。誕生日おめでとう」
お父さんは満面の笑みを顔に張り付け、いかにも優しげな風に優菜を呼んだ。
あの女と会った後のくせして、よくもいけしゃあしゃあと。
優菜の怒りは風船のように一気に膨らみ、破裂した。
私は近くの壁に向かって、写真をフレームごと投げつけた。パリンッと派手な音を立てガラス面が割れ、中に入っていた写真が飛び出した。
「お父さんのバカ! 浮気なんて最低!」
驚いたのか、お父さんは、ついでにお母さんも、口をポカーンと開けて立ち尽くしていた。
浮気発覚。
あぁ、きっとこれから、両親の壮絶な修羅場が始まるのだろう。せっかくの誕生日なのに、お父さんが裏切ったばっかりに。
優菜はどこまでもお母さんの味方をしよう、と一人心に決める。
「あ、これって」
お母さんが写真を拾い上げる。その顔はまるで、般若のように憤怒に満ちて……はいなかった。
「懐かしいね健ちゃん」
「そうだな、有希」
そう言って、二人は遠い目をしていた。そして流れる穏やかな空気。
え、なんで? どゆこと?
何が起きているのかさっぱりわからない私に、お父さんは諭すような口調で言った。
「ごはんの前にちょっと時間を貰えるかい? ちょうどそろそろ、優菜にも話さなきゃなって思っていたんだよ」
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