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「と、いうわけなんだよ、実は」  大事な要件ほど軽く伝えろ、なんて誰かが言っていた気がするけど、お父さんはとても大事なことを、ものすごくあっけらかんと私に伝えた。  だからこそ優菜は、お母さんが血の繋がったお母さんじゃないこととか、血の繋がった方のお母さんとは一生会うことができないことだとか、その他諸々、あまりショックを受けずに受け入れられたのかもしれない。  目の前の写真の裏に書かれたメッセージ。生みの母が書いたという「お父さんをよろしく」という文字を見ながら、そんなことを考えていた。  当然、お父さんは浮気などしていなかった。ただ亡くなったお母さんの命日に、お墓参りをしているだけだった。  気付けば、優菜は涙を流しながら「ごめんなさい」と繰り返していた。 「ごめんなさい……ごめんなさい……」  それはいたずらで部屋に忍び込んだことに対する「ごめんなさい」か、浮気を疑ってしまったことに対する「ごめんなさい」か。それとも大切な写真を投げつけたことに対する「ごめんなさい」か。  あるいは優菜を生んだせいでもう一人のお母さんを死なせてしまったことに対する「ごめんなさい」か、優菜自身よくわからなかった。  お父さんはただそんな私の隣に座り、優しく語りかけた。 「優菜、父さん、髪の生え際にほくろがあるかもしれない」 「それ、今言うこと?」  私はおかしくなって、思わず吹き出してしまった。  笑いすぎて肩で息をする私の頭に、お父さんの手がそっと伸びる。そして、私のうねりひん曲がった髪に、撫でるように触れた。  そういえば、と優菜は思った。  お父さんもお母さんもストレートな髪質なのに、私だけ天パなの、もう一人のお母さん似だったからなんだな。 「さて! それじゃ、楽しいごはんにしよう!」 「そうしよ。さ、顔洗っておいで、優菜」  お父さんとお母さんの明るい声が響く。  大きな悲しみがあっても、底抜けに明るく、前を向いて進んでゆく。 もう一人のお母さんが残してくれたもの。それを家族みんなで繋いでゆく。  優菜はトレードマークの前髪に一度触れた後、「うん!」ととびきり元気の良い返事で応えた。
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