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もう喋らないで
傷口が広がるからもう喋らないで。そう切に思いながら私は彼の言葉を聞いた。
大柄な男と数人の子供。私も彼もその一人だ。男の手にはハサミが握られている。
もっと違うやり方があったはずなのに…私がもっと考えていたら彼がこんな見るに耐えない姿にならなかったはずなのに。
私は男に情報を送った裏切り者だ。内通者だ。そんな人間が彼の姿を憐れむ資格など無いのかもしれない。
そんな中彼は喋り続ける。男は静かに彼の言葉を聞いている。男の肩が少し振るえている。それはどんな感情だろうか。
そして彼は喋り終えた。私は彼の死を感じた。
「もういい。田中。実はもう犯人は分かっていたんだ。ただ、俺は正直に自白してくれれば許してやろうと思っていた」
教頭の鈴木先生は怒りに震えていた。彼の前にはハサミと真ん中に穴の空いたカツラがおいてあった。
私は田中が教頭先生のカツラを切ると言うイタズラの現場を発見しており、それを鈴木先生に密告していた。
そんなことを知らない田中は言葉多く自分が犯人ではないことを弁明し、傷口を広げていた。
恐らく彼は犯人が分かっていないのなら堂々としていればばれないと思ったのだろう。
怒りに震える鈴木先生と穴の空いたカツラ、いたたまれない様子の周りの教員。そして田中と自白しやすいように呼ばれた数人の友人。
そんな混沌とした状況を見て私は彼の死を感じた。
これはイタズラをし、ばれているのにも関わらず言い訳をし、傷口を広げる可愛そうな少年のお話です。彼の運命は如何に!
次回! 田中死す! デュエル スタンバイ!
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