③そしてゴングが鳴り響く

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~ * ~  タクシーの後ろ姿が見えなくなるまで狩野は見送り、彼女が帰っていくのと反対方向へと歩いていく。  ラブホテルから少し離れたところには公園があり、そこで朝日を反射させ輝く金髪をした彼を見つけたのは本当にたまたまだった。  ベンチに座った彼は立ち上がることなく、両膝に肘を置くような形でこちらを見上げた。 「おはよーございます。ど? 人の彼女と寝た朝は?」 「おはようございます。そうですね、いつも以上に幸せに満ちた朝ですよ」  彼女を抱いていないということは言わず、挑発に挑発を返す。  すると彼の目がスッと細くなり、「あぁそう」と口角をつり上げた。 「狩野忠、30歳A型。現在課長の地位で仕事に励むサラリーマン。両親はどちらも教師で、歳の離れた妹がひとりいる」 「・・・・・・・・・・・・」 「ホストってさ、別にヤクザと繋がってるわけではないんだけど、相手をリサーチするのにたけてないといけないわけ。情報は売り買い出来るもんだからね~」 「俺の情報はいくらでしたか?」 「どこにでもいるような人間の値段なんか、たかが知れてる」  フーっと息を吐き、ベンチの背もたれに身体を預ける。  だが腕をそれに掛けたり、足を組んだりはせず、ただ座って彼は名乗った。 「俺は大峰浩斗。れなの彼氏だから、そこんとこ忘れるなよ」 「別に、月城さんの彼氏であろうとも俺は構いません」  狩野はとくに表情を変えるわけでもなく淡々と答えるが、浩斗はその言葉が気に食わないとばかりに眉を寄せた。 「は? 人の女に手を出すなっつってんの」 「月城さんは貴方が彼氏であることを否定していますけど」  昨日見て、聞いていたやり取りを思い出す。  会社での彼女しか見たことはないけれど、あそこまで人を拒絶する姿は初めて見た。  それだけ彼のことが嫌いなのか、それとも別のことを意識しているのか。 「まーね。れなは俺のこと嫌いみたい」  先ほどまでの強気な姿勢が少しだけ崩れ、どこか寂しげに笑う。しかしすぐに「でもさ」とギラつく瞳をこちらに向けた。 「俺はれなが好き。れなの傍にいたい。他の男と一緒にいるのだけでも嫌なのに、セックスするなんて言語道断」 「貴方が月城さんのことをどれだけ好きであろうと、彼女が他の男とも寝たいんでしたら、それを許すべきでは?」 「・・・・・・本気で言ってるわけ?」  怪訝そうな顔に、狩野は当たり前だと深く頷いた。 「好きだからって人を縛り付けるのは良くない。俺はあの人が自由にしている姿が好きなので、どんなことをしていようが、俺はそこを含めて好きですよ」 「んー、なるほどねー。そういう好きっていう形もいいと思うケド」  浩斗は立ち上がり、額がぶつかるのではと思うほど近づいて言う。 「偽善者っぽい」 「なんとでも」  肩を揺らして狩野は鼻で笑う。 「逆に貴方は独占欲の塊ですね」 「好きな女を独占して何が悪いわけ」  真似するように浩斗も笑い、「とりあえず」と近づけていた顔を離した。 「れなは俺の女だから、そこんとこよろしく」 「彼女がそう認めたら、そう認識しますよ」  狩野も一歩後ろに下がり、仕事の時と同じように深くお辞儀をする。 「では、このあと仕事があるのでこれで失礼します」  そして来た方向を戻る形で歩いて行けば、「狩野サンさぁ」と背中から声を掛けられた。 「れなが俺を好きだって言ったらどうするの? それも許容すんの?」 「そうですね。俺の存在を拒否しない限り、俺は彼女の傍にいますよ」  足を止めるほどの質問でもない。  そのまま狩野はタクシーを捕まえに大通りへ出て行った。 「偽善者の執着って怖いねぇ」  浩斗が呟いた声はどこかからか聞こえたパトカーの音にかき消され、背筋を伸ばして歩く狩野に届くことはなかった。
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