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3
【②お父さんのスーツ、右から3番目。】
これは素直に問題に従ってみた。
お父さんのスーツはどれも代わり映えせず、ダークな哀愁を漂わせているだけで、右から3番目にかかっているスーツも何の変哲もないペラペラな濃紺のスーツだ。
「これに、何かエピソードでもある?」
スーツを取り出して、まじまじと観察する。
「いや、何時買ったんかも思い出せへんし、何時着たんかも思い出せへんくらい、よう着てるやつやわ。」
確かに袖の皺や、ボタンの止め具合、というよりも全体的にくたびれ感が出ていて、クリーニングに出す頃合いなんじゃないかと思った。
「とりあえず、下に持って行って別の角度から観察しよ。」
そう言って、リビングに降りた。
でも、いくら観察しても、特に何もない。
もしかして、色?
①紫
②紺
③青
んーーーーー。違うかっ。
【③アオのすきなもの。】
これは隣の佐藤さんに聞けばすぐに分かるだろう。ここに記されている「アオ」は隣の家の飼い猫で間違いないだろう。お母さんのお気に入りで、私のライバルだ。
動物が苦手な私は、犬も猫も鳥もウサギも怖い。
だから、アオは恐ろしい存在なのだ。
なのに、何故かアオは私の物が好きなようで、タオルとかTシャツとか、私が気に入って大事に使っている物を選んでじゃれ付く。
動物好きのお母さんは、その光景をみて、アオを追っ払う事なんて絶対しない。むしろ、毎回微笑ましく見守っている。
娘の大事にしてるモンより、隣の猫の方、取るんかいっ!
といつも心の中で大きく突っ込むけど、それを口にする事は無い。
過去に一度、不満をぶつけた時「それなら、うちでも猫を飼おうかな。」と呟かれてから、恐ろしくて「二度とアオに対しての不満を口に出すまい。」と心に誓ったのだ。
我が家には猫嫌いがもう一人。嫌いというか、アレルギー。
お父さんは猫アレルギーの為、可愛いと思っていても、アオに関わることは健康上問題有りなのだ。
ついこの間も、アオがウチに上がり込んできた時、くしゃみが止まらなくなって、大変だった。
だから、③の件は、動物が苦手な私が泣く泣く【アオの好きなもの】を捜索することになった。
期限が明日の夕飯後となった今、時間の猶予は無い。学校からの帰り道、その事を考えながら自転車で帰宅していたら、もうすぐ家だという所で、アオの飼い主である佐藤のおばちゃんの後姿が見えた。
佐藤のおばちゃんは原色好きで、服から小物まで実に色とりどりな装いなので、後姿だけで分かるのだ。
今日も、真っ赤なカーディガンに色とりどり花がプリントされたパンツを履いている。
私は自転車を降りると、近くにアオがいない事を確認してから、「隣のええお嬢さん」の笑顔を作って挨拶をした。
「佐藤さん、こんにちは。」
「アラ、里奈ちゃん、お帰り。」
買い物帰りらしいと思ったのは、何の柄かは分からないけど、とにかく服に負けないくらい、派手なエコバッグを手に持ていたからだ。
「それ、漣君のおもちゃですか?」
エコバッグからはみ出して見えている派手な柄のついた棒状のものが見えていた。
「ちゃう、ちゃう。これはアオの。」
「アオの?」
「そう。これな、先っぽにフワフワしたのんが付いてて、それを振ってじゃれつかせるんよ。前に使ってたのんが壊れてな、新しいのん買ってきたんよ。」
そう言って、エコバッグからそれを抜き出して見せてくれた。
「アオって、これが好きなんですか?」
「うん、だってこれで3代目やからね。」
「3代目?アオが大好きな物?」
「そうそう。これマタタビ成分入りやから、きっとどんな猫でもイチコロやで。」
「おばちゃん、それ、写真撮ってもいい?」
「ええよ。ハイ、ポーズ。」
おばちゃんはご機嫌に、猫のおもちゃを持って、モデル気取りのポーズを取ってくれた。
「ハイ、チーズ。」
私はおばちゃんが持っている猫のおもちゃに焦点を当てて、画角いっぱいに収まるようにズームにして撮った。
ごめんな、おばちゃん。必要なんは、このマタタビ入りのおもちゃであって、おばちゃんや無いんや。
何枚か同じ写真を撮りながら、心の中で謝った。
たぶん、③の答えは、マタタビ?
だとすると、3っつに共通するものは…。
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