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4月後半の朝は穏やかで眠い。
そう。春は眠い。
それは先人達も言っていた、「春眠何とか~。」って。だから、私の目が半分しか開かないのも仕方のない事なんだ。でも、我が家にはもう一人。私と同じような目をした小っちゃいおっちゃんがいる。
春以外はいつも、ウザいくらい朝から元気なお父さんも、このGW前後は眠そうな目を隠そうとはしない。
「里奈、お早う。」
気の無い挨拶をするお父さんに、私も負けず劣らずの気の無い挨拶を返す。
「おはよう。」
私とお父さんはほぼ同時に朝ごはんが用意された食卓についた。
目玉焼き、お味噌汁、ごはんはお母さんが今よそってくれているし、後、いつもの手紙。
手紙?
…手紙?
白い封筒が封をせずに納豆のパックの上に置かれている。
私はそれを手に取ると、お父さんを見た。
お父さんも封筒を持って、私を見ている。
私達の寝ぼけた目は、目が合った瞬間に、眠気を吹き飛ばし、大きく見開かれた。
そして、二人でゆっくりと、お茶碗によそったご飯を差し出してくれる、笑顔のお母さんを見た。
「はい。お早う。それ、お母さんからのお楽しみ♡」
私は湯気を立てたツヤツヤのご飯がよそわれたお茶碗を受け取ると、急いで封筒の中身を確認した。
一枚の便せんと、一枚の写真。
「ゲーム開始は朝ごはん食べてからやで。ひとまず仕舞って、冷めへんうちに食べなさい。」
私達は、お母さんの言葉に従って、封筒の中身を仕舞い、急いでご飯を食べる。
「いただきます。」をする時にチラッとお父さんを見たけど、朝の習慣の新聞も読んでいない。それどころか、急ぎ過ぎて納豆のパックを開けるのを失敗して、手が納豆まみれになっていた。
動揺は、二人の間だけに伝染して行って、私達が朝食を食べ終えた後は、お隣の佐藤さんの2歳の孫、漣君が食事をした後の様に散らかっていた。
お茶碗をシンクに運んで、食べこぼした後を隠滅するかのように台拭きで拭うと、私とお父さんはダイニングから続きにあるリビングのソファーに仲良く座って、手紙の中身を再び確認した。
【①この写真に写っているもの。
②お父さんのスーツ、右から3番目。
③アオが大好きなもの。
この三つに共通するのは何?
期限は三日後、夕飯の後。】
①の写真はお母さんの着物姿。
確かこれは、3年前の従妹の紗帆ちゃんの結婚式で撮ったはず。
濃い紫色に銀色の帯を巻いていて、帯と似たような色の草履には、忘れられない思い出があった。
「お父さん、これまさか着物とちゃうやんな?それとも草履?」
とりあえず、見たままを口にする。
「そんな単純な訳無いやろぉ。お母さんやで、もうちょっと捻るって。とりあえず、これは後回しにして、他から当たろ。」
そう言って、2階のお父さんのスーツが掛けてあるクローゼットへ行こうと立ち上がったが、無意識に目をやった壁の時計が、家を出なければならない時刻を指していた。
「うわっ!ヤバっ!お父さん遅刻するって。続きは帰って来たらすぐやで。早よ返って来てや!」
「里奈も、帰ったら先に考えといてや!」
こうして私とお父さんは、「謎解き研究会」を結成したのである。
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