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暗闇の二人
地震による崩落から一時間が過ぎた。
地下に閉じ込められた二人の男は、暗闇の中で身を寄せ合っていた。
「孤島の鬼って知ってるか?」
話題も尽きたころに、森本が独り言のようにつぶやいた。
「あらすじくらいなら知ってるけど。
江戸川乱歩の小説だっけか」
スマホの電波が届いていないを再度確認して、一緒に閉じ込められた三浦が応える。
いつもなら、仕事の準備やくだらない雑談で一時間などすぐに過ぎてしまう。
暗闇の中の一時間は、二度と出られないのではないかという恐怖も相まって永遠のように三浦には感じられた。
気がまぎれるならなんでもいい。
三浦は、ことさら明るい声で森本の差し出した話題に乗った。
「確かあれだ。
主人公が婚約者を殺されて、その犯人探しをするやつ。
犯人が人体改造とかしてる鬼のようなやつで、そいつの島に乗り込んでいくから孤島の鬼って感じだったっけか」
「おおまかには、合ってるな」
「舞台とかにもなってるし、最近漫画にちょっと出てきたしな。
で、その孤島の鬼がどうしたんだよ」
このまま閉じ込められ続ければ、漫画の続きも読めないな。
などと、ある種のんきなことを三浦は考える。
沈黙。
暗闇の中で顔こそ見えないものの森本が緊張している空気が伝わる。
ゴクリという唾をのむ音は、いったいどちらのものだっただろうか。
「似てると思ったんだ。今の状況に」
森本が、ゆっくりと口を開く。
森本の熱い吐息が頬にかかり、三浦は思わず身をすくめた。
いつの間にこんなに近くにいたのだろうか。
「孤島の鬼で、主人公の箕浦は相棒の諸戸と一緒に地下迷路に閉じ込められるんだ。
光もない。真っ暗な洞窟を。二人きりで、さ迷い歩き続ける」
耳元で、森本の唇が動くのが感じられる。
三浦は距離を取ろうとするが、森本の固い腕が三浦の肩をつかんだ。
「死を覚悟した時。諸戸は秘めた思いを解き放つんだ」
「秘めた思い?」
「ああ、暗闇の中で男が二人でいて、やることなんて決まってるだろ」
森本の腕に力がこもる。
逃げ場はない。
そして、この暗闇の中には三浦と森本の二人しかいない。
さっと血の気が引く音を三浦は聞き。
森本が蛇のように舌なめずりをし。
「あれ?もしかしてお邪魔でしたか?」
一人の男の禿げ頭が暗闇を明るく照らした。
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