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闇夜。月のない夜。
降りしきる雨が、
周囲の音をかき消している。
俺は紫煙を燻らせながら、
狭い車内で奴の動きを
モニター越しに監視している。
モーテルと呼ばれる安宿に似つかわしくない
黒塗りの高級車が停車してから、
既に2時間が経過しようとしていた。
ハイテクだかなんだか知らんが、
どんなプレイを楽しんでいるかまで
センサーは赤裸々に映し出す。
「まったく悪趣味だねえ…」
「どっちが犯罪者なのか、
時々わからなくなっちまう。」
[[…特務03、ザザ…状況知らせ。]]
雑音混じりに届く定時連絡の催促。
監視だけなら衛星で追えるだろうに、
ずいぶんと面倒な事をする。
「特務03、異常なし。
引き続き対象者の監視にあたる。」
[[ 了解、03。動きがあるまで待機されたし。]]
動きがあってからじゃ遅いだろ…
相手が政治家だとそんなに怖いかねぇ。
「なあ、こっちから仕掛けないか?」
「ソノ考エハ危険ト判断シマス。
03、指示ニ従ウ事ヲ推奨シマス。」
「超法規的な組織が令状なんかいらないだろ。
また犠牲者が出る前に踏みこむべきだ。」
「私ハ法令遵守体制ノ継続強化ノ為ニ
機能シテイマス。許可デキマセン。」
新世代執行者支援OS、
エンハンスオペレーションシステム。
その名のとおり、執行者の能力の強化や
アシストをしてくれる優れもののAIだ。
便利な代物だが厄介な事に世代交代が早く、
俺ら末端の兵隊に与えられているのは
すでに2世代前の旧式だ。
誰の端末か認識する為に個人個人のOSには
ニックネーム的なものを付けるんだが…
俺はこいつの事をポチと名付けた。
こいつは融通が効かない。
組織の犬みたいな奴だからな。
「奴が黒なのははっきりしてんだろ?
執行するのは世の為、人の為だ。」
「同伴シテイル女性ガ人質ニナル
可能性ガアリマス。」
「話題を変えよう、奴の因子の状態は?」
「活性化シ始メテイマス。
早急ニ対応ガ必要ト判断シマス。」
事を起こすにはまず、
セーフティにがんじがらめにされている
ポチの説得から始めなければならない。
理論をすり替えて、時には欺いて。
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