リスクファクター

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怪異が静かに進行していく。 モニターの体表温度を示す色が、 赤から紫へと変化していく様子が はっきりと映し出される。 「46℃…52℃…!正体を現しやがった。  撮ってるな!?ポチ!」 「ハイ。状況証拠トシテ、申シ分アリマセン。」 ありえない体表温度は 対象者が人ではない何かだという、 揺るぎない証拠となる。 同伴の女も異常に気づいたようだ。 距離を取って周りにある物を 手当たり次第に投げつけている。 人ならざる姿を目の当たりにしているだろうに、 なかなかどうして、気の強い女だ。 「…あの物音に、この雨。  いいカムフラージュになりそうだ。」 「緊急事象ノ発生ヲ確認。」 「03、視神経及ビAIMノ同調ヲ開始シマス。  システム解放コードヲ。」 「おう。頼むぜ、相棒。」 「Si Vis Pacem, Para Bellum.」     ( 平和を望むならば戦いに備えよ ) システム解放よりも早く、 ハンドガンで狙いを付けていた俺に ポチが介入してくる。 電気式でもなければ機械式でもない、 霊式の拡張アシストが 最高のパフォーマンスを発揮する瞬間だ。 起動時に一瞬だけ独特の感覚がある。 半ば強制的に体の制御を奪われるような、 腕の自由を持っていかれるような… このマリオネットのような感覚は あまり好きにはなれないが、 少しでも精度を高める為の所作だと 無理矢理にでも自分を納得させる。 「今日はちょっと補正が強めだな。  コンディションは悪くないつもりだが?」 「上層部ノ判断デス。天候不順ヲ理由ニ、  アシストレベルガ高メラレテイマス。」 「…まったく、信用ねえなぁ。」 闇夜に雨が加わり、視界は確かに最悪だ。 しかもモーテルの窓は固く閉ざされていて、 狙撃に向いている銃器があるわけでもない。 そんな状況下でもこのOSとリンクしていれば、 確実に任務を遂行できる。 「あの通風孔からいけそうだな。  建物の構造的に13回くらいの跳弾で  届きそうだが…どうだ?」 「演算開始、跳弾予測…終了。」 「不確定要素モ有リマスガ、可能デス。  13回ノ跳弾ノ後、対象者ノ顳顬ニ着弾。」 「ソノ際ニ、ヒトガタノ術式ガ無効化サレ、  一時的ニ動キヲ止メル事ガ可能デス。」 「ナオ、成功率ハ89.5963%デス。」 「精度低いな…ま、最悪こっちに  引きつけられるか。」 「単独デハ限界ガアリマス。  早急ニ、03のロストナンバーヲ  確保シテクダサイ。」 「…それができてりゃ苦労はないさ。」 「対象者ノ、トレース完了、  カウントダウンヲ開始シマス。」
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