リスクファクター

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怪異化が止められないとなると、 あとは命のやり取りしか残されていない。 対象者にはもはや人間的な思考すら 残されていないだろう。 闇夜の中で見失わないように、 モニターによる監視と 肉眼での目視を使い分けて 状況の把握に努める。 ここで逃してしまえば、 虎を野に放つようなものだ。 失敗は許されない。 「一発必中か、スリリングな展開だ。」 「言ッテイル事ト、感情ガ合致シマセン。  今ハ、ドウイウ心境ナノデスカ?03?」 「…武者震いってやつだよ。  最も、体に補正がかかってて  震える事はないんだけどな。」 「一時的ナ興奮状態トイウ事デスカ。  興味深イ現象デス。」 しばらく様子を注視していると 勢いよく非常口の扉が開かれ、 怪異と奮闘していた女が飛び出してきた。 動きが鈍った対象者を見て、 今しかないと行動に移したんだろう。 それにしても胆力がある。 普通なら卒倒したっておかしくない。 さぞかしゴツい女なのだろうと思っていたが、 目に飛び込んできた姿に俺は驚きを隠せなかった。 黒いロングヘアーにキャミソールだけの 下着姿で現れた女は端正な顔立ちの中に、 どこかあどけなさも残る少女だったのだ。 「…こっちだ!早く!」 少女は俺たちの車に気づくと、 こちらへ走り寄ってきて助けを求めた。 後部座席に乗り込んだ少女に 上着をかけてやると、 縮こまるように膝を抱えてうずくまる。 「軽イショック状態ニナッテイマス。  早急ニ心療内科デノ治療ヲ推奨シマス。」 「もう大丈夫だ、怪我はないか?」 「あなたたちは…?」 「エグゼクターだよ、怪異専門のな。」 「…戦ってるの?あんなやつと?」 「話なら後だ、こっちも聞きたい事がある。」 「対象者、変質シテイキマス。  消失マデ…10秒。」 「マーカー射出、逃すな!」 奴らは危機を感じ取ると姿を消して、 執行者に音もなく近づく。 まるで光学迷彩のようにモニターでも 肉眼でも追うことが出来なくなる。 それでも質量を変える事はできない。 柔らかい土の上を移動すれば足跡が残るし、 物をすり抜ける事も不可能だ。 「モーテルの中に人は?」 「無人デス。反応ハ有リマセン。」   政治家が若い女を買っていたとなれば、 政治スキャンダルになるのは間違いない。 それを恐れて貸し切りにしていたなら好都合だ。 「派手に建物をぶっ壊して出てきてくれたら、  近づいてきてもわかりやすいんだけどな。」 「不適切ナ発言デス。法令ニ従ッテ行動ヲ。」 「要は止めりゃいいんだろ、手段は問わずだ。  俺は聖人君子じゃない。」
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