リスクファクター

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砕け散る音と光。 先に仕掛けてきた怪異は 点光源上に黒い足跡だけを残し、 速度を上げてこちらへ迫ってくる…! 牽制で放った数発のうち1発が 対象者の左肩に着弾し迷彩が剥がれた。 可視化したところへ更に一撃を加え 上半身を仰け反らせる事ができたが、 痛みを感じていないのか勢いは止まらない…! 飛び退いて距離を取るか、 それとも押し切るか…! どちらかの選択に迫られた時、 光学兵器の収束された光が ミリ単位の精度で怪異の顳顬を捉えた! 不意を突かれ直撃を食らった巨体は、 もんどり打って倒れ仰向けの状態で地面を滑り、 俺の足元でようやく止まった。 冷たい雨が対象者を濡らしていく。 静かな闇を湛えた双眸から 感情らしいものを見いだす事はできない。 「…じゃあな。」 銃口を怪異の眉間に押し当て、 ありったけの弾丸を撃ち込む。 怪異は激しい痙攣を起こした後、 力なく地面に四肢を投げ出した。 生命の兆候はもう感じられない。 通常弾であっても頭部を完全に破壊すれば、 このように対象を制圧する事もできる。 たとえベクター弾が使えない 状況下に置かれたとしても、 俺は必ずコイツらをしとめる…! 「また、怖い顔になってますよー。  執行者じゃなく、復讐者の顔に。」 「…ミュゼか。」 「マーカーに実弾銃。  まだこんなレトロな武器で戦ってるんだ。」 「どうせならヴィンテージって言ってくれ。」 光学兵器が実弾銃に取って代わる。 そんな事が言われた時代もあったが、 収束を妨げるコーティングなどが次々と開発され、 その優位性は揺らぎつつある。 「光学兵器は実用性、信頼性共に  実弾銃を凌駕する物ではなくなった。」 「何よりロマンが無い。」 「エネルギー効率も悪い。」 「実弾銃より射程長いしー。」 「到達速度も速いしー。」 「とにかく実弾銃は駄目。  硝煙反応とか残された薬莢から  特定される事だってあるし。」 「後半は完全に犯罪者寄りのセリフだな。」 「それに音もなく攻撃できるから、  隠密行動にピッタリだよっ!」 「ああ、神出鬼没なお前にはピッタリだろうよ。  久しぶりだな、ミュゼ。」 「相変わらずの死神っぷりだねー☆  どういう状況ならキミは死ぬのかな?」 「トリガーハッピーなお前でもわからないなら、  俺は不死身かもしれないな。」 対魔殲滅部隊アンプラグド。 金に物を言わせて私設警察紛いな事を 合法ギリギリのラインでやってる連中だ。 警察組織も自前の部隊だけでは 対抗できないからって、 こいつらの事は黙認している。 武装はいつも最新式で残弾も気にせずに 作戦行動できそうなところは魅力的だが… いや、やめておこう。 俺はそこまで戦闘狂じゃない。 この組織を束ねているのが 目の前にいるよく喋る女、 ミュゼ・アヴェンタドールだ。 決してお飾りなんかではなく、 スポンサーとの交渉にも 戦闘の最前線にも積極的に加わる かなり腕の立つ人物で、 周りからも一目置かれる存在だ。 それにしても、組織名のクセが強い。 正義の味方にでもなったつもりか。
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