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その宿を選んだ理由は、安かったからだ。
富山ユースホステル。
平成十二年末に閉鎖されて、今はもうない。
その頃、僕は奈良に下宿し、関西の大学に通っていた。
夏、冬、春には千葉の親元に帰省をしたが、その都度、僕は経路の鉄道線上で「寄り道」をすることを楽しみにしていた。
切符は、普通列車にしか乗れない「青春十八切符」。
寄り道といっても、その全行程を一日で済ませようとすると選択肢は少ない。
途中で二泊するのがポイントだ。時刻表を捲れば、様々な選択肢が僕を待っていた。
三年生の春、僕は、関西から岐阜を経て飛騨高山に立ち寄り、さらに北上して富山に宿をとるコースを組み立てた。
高山には午後まで滞在した。日差しは暖かかったが、日陰には厚く雪が残っていた。
町を歩き、資料館を訪ね、クラシックな喫茶店でコーヒーを飲んだ。
午後、高山を出て高山本線を北上し、富山に向かった。その線路には両側から山が迫り、単線の、淋しい隘路だった。
夕方、富山に着いた。既に日は暮れていた。
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