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宿を出てバス停に行く前に、僕は提案した。
「ちょっと浜辺に出てみませんか?」
「行ってみましょう」
そこで見た風景に、僕らは息を飲んだ。
波打ち際から百メートルほど離れた沖に、真っ黒な消波ブロックが積まれていた。
角張った突起を突き出したそれは、無数に積み上げ並べられ、長い城壁のようになっていた。
その裏から、海が大きなうねりとなって、打ち付けていた。
波は飛沫となって跳ね上がり、繰り返し、しぶきの壁を立ち上げていた。
日本海はまだ、濃厚に冬の気配を含んでいた。
僕らは宿の前のバス停から、富山駅行のバスに乗った。
バスはぶうぶうと騒々しく、地元の通勤客が沢山乗って来た。
僕らは無言のまま富山駅まで運ばれて行った。
富山駅は鉄筋造りの大きな駅で、コートを着た人々が、右に左に歩いていた。
列車を待つまでの間、ホームで僕は彼女にたずねてみた。
「今日は、どこまで行くんですか?」
「今日で旅行はおしまい。糸魚川っていう駅まで行って、そこから電車を乗り継いで、都内の家に戻ります」
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