北陸本線(短編)

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「そうなんですか?旅慣れているように見えました」 「そんなことないですよ、どきどきしてます」 「それは気づかなかった」 「実は私、病気していたんです」 「病気?」 「はい。それでずっと入院してて。あまり外のこと知らないんです」 「そんなに長い入院だったんですか?」 「ええ。だから、こうして一人旅なんかに出るの、楽しくて仕方ないんです」 「そうだろうね、入院したことのない僕でさえ、楽しくて仕方ないですから」  北陸本線は朝のラッシュを少し過ぎて、空いていた。  僕らはソファのような大きな座席に向かい合って座り、車窓を眺めながら話した。  車窓を眺めていないと、目が合ってしまって気恥ずかしいということも、あったと思う。  富山市街はすぐに途切れ、枯れた風景が広がっていた。 「入院してる間はね、年下の子供達とお友達になったり、そんなことが楽しみでした」 「子供達も入院していたんだ」 「あたし幼稚園って行ってないし、小学校にもあまり行けなかった」 「そうだったんだ。辛いね」 「中学になって少し良くなったけど、でも、院内学級っていって、病院の中で授業を受けたの」
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