北陸本線(短編)

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「聞いたことあります。中学のとき、一人、書類上同じクラスに在籍しているけど、実際には院内学級に通っている同級生がいた。クラス写真には一緒に写っていた」 「その子、今はどうしてるんだろう?」 「うーん、僕が転校しちゃったんで、よくわからない」 「そう。あたし転校ってしたことないから、転校ってよく分からないです」 「お互いに、知らない世界を持っている」 「そうみたいね」  入院?学校に行けないほどの病気?  今、僕の向かいには、ごく普通に健康そうな彼女が座っている。  世の中には色々難しい病気があるのかもしれない。 「しかし、旅行に出て大丈夫なの?」 「今は退院して旅行にも行けるようになった。けれど本当のところ、退院出来るなんて思わなかったです」 「そんなに大変な病気だったんですか」 「うん、大変でした。けど、死ぬ病気でもなかったというか・・・」 「それでもずっと病院で暮らしているのって、辛そうだ」 「まあ慣れればそれなりよ」 「じゃあそれであまり旅行にも・・・」 「行けなかったわね。子供の頃、一回だけお父さんの車で、遊園地に連れてってもらったくらいかな。旅行って言わないね、そういうの」
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