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父に聞く、明宏は少し考えてから頷いた。
本音を言えば、今すぐにでも結婚はしてほしい。春になれば明次は結婚し、そうしたら家督も会社も全て譲って勇退する気満々だったのだ。それが先延ばしになるのは嫌だが、侑斗の様子を見れば致し方ないと思うしかない。
「よし、鈴ちゃんも大学卒業までだな。なら保くんも結婚できる歳になってるし、また状況も変わるかもな!」
侑斗の言葉に、鈴はにこりと微笑むだけで答えにした。
(──高校卒業の後の進路は、家事手伝いの一択だから)
そんな野望は笑顔にひた隠し侑斗に手を差し出す、侑斗は素直にその手を握り締めた。
滑らかで細い指に触れ、図らずもどきりとしてしまう。
(いやあ、やっぱあり得ないな──)
鈴が生まれた時のことを覚えている、まだ幼い明次が新生児の鈴を懸命に抱っこして「かわいいでしょ!」と自慢していたのだ。そんな娘と結婚などできるはずがない。
手を緩めかけたが、その腕を引かれた。
「え、鈴ちゃ……!」
「私の部屋、行こ」
「え、なん……っ」
「今後の話し合いよ」
侑斗の腕を引きながら立ち上がると兄の遺影が目に入った、優しく微笑む兄に、鈴は内心謝る。
(ごめん、お兄ちゃん、ありがとうって思ってる)
子供の頃から憧れていた人と結ばれるのだ、嬉しくないはずがない。こんな好機は絶対に逃さない。
まずは、恋から、始めよう
終
#1→#2
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