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頬を押さえて俯いたのが判ったのか、池中さんは笑う。
「緊張しちゃう? 大丈夫だよ、すぐに助けも来るって言うのに襲い掛かったりしないから」
明るく言われて、私も笑い返す。
「そんな心配してませんよ、だって池中さん、恋人いるじゃないですか」
見上げたその顔が、ああ、とでも言いたげに沈んで、視線を反らした。
「まあ確かに一緒に住んでるし、恋人なんだけど──実は俺、ノンケなんだよね」
「──は?」
とんでもないカミングアウトに、私は息を呑んでいた。ノンケ、それは同性ではなく異性を恋愛対象としている人だ。
「ノンケっていうのは……」
「判ります、いいです」
慌てて手を振った、そんな説明はさせたくない。
「え、だって、堂々と宣言もして……」
「それが事実だったしね。万が一後でバレて変な噂になるのも嫌だったし、レンの為にも言っておいてやった方がいいと思って──あいつ、ちょっと精神的に不安定な奴なんだよね、過去にいろいろあったみたいで」
「そうなんですね」
いつも明るく笑ってる、そんな事は想像できないほどに。
「家庭もだし、前の男に手痛く振られて、随分貢いでDVもあったりなんかで、もう死にたいってとこまでいってた時に、たまたま俺に逢ってさ。俺の友達の友達だったんで、そいつが気晴らしにって遊びに誘って知り合った。なんか俺がすげぇ好みだったらしいんだよね、で、破れかぶれだったから振られてもいいやって思ってたらしくて、アタックされまくって。完全に押し負けたのは事実、一回だけならってやったら、意外とよかったから交際って形をとった」
「え、どんなとこが……」
「は?」
は! 思わず興味が……! 慌てて首を左右に振って妄想を追い出す。
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