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「ご無事ですか?」
警備員の言葉に池中さんがはい、と答える、その前に聞こえた呟きは聞き逃さなかった。
「あと5秒待って欲しかったね」
その5秒で何をするつもりだったのか、怖くて聞けなかった。
上と下で、どうやってここから出ようかと相談している、梯子を持ってくるという警備員に池中さんがいう。
「八代さんは上げてあげるよ」
むっちゃ笑顔で言われた。
「え、そんな、軽くないですよ?」
決して小柄な方ではない。
「大丈夫だよ」
そういって身を屈め、私の膝のあたりを腕で抱き締める。
「え、え、え!?」
ひょい、と担ぎ上げられた。
「でも! どうせ梯子がないと、池中さんは出られないし!」
「とりあえず早く出たいでしょ」
「そ、そうですけど……!」
「手、届く?」
「──はい」
残念ながらあっさり届きます、カゴの天井に手をかけた。
「後は俺の肩に足かけていいから、よじ登って」
「そんな! イケメンを足蹴になんか!」
「緊急事態でしょ」
池中さんは笑っていう。
「意外とそんなプレイも好き」
「もう、バカ!」
怒鳴るけれど、池中さんの腕が緩んで、足裏を支えてくれる、更に上げようというのだろう。
「あの、せめて、靴くらい脱ぎたい」
池中さんの手も、肩も汚したくない。
「はいはい、じゃあ、俺の肩に膝かけて」
「は、い」
そうしようと思ったけれど、いや、待って、そんなことしたら、池中さんの顔に、顔にぃ!
と戸惑っている間に、パンプスは床に落とされた。
「ほら、上がりな。警備員さん、支えてあげてください」
はい、といって若い警備員さんが私の上腕を掴んでくれる。
「はい、せーの」
池中さんの掛け声と共に、私は天井を掴んだ手に力を込め、警備さんは私を引き上げ、池中さんは私の足を支えてくれ──。
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