192人が本棚に入れています
本棚に追加
☆
初めて彼と出会ったのは、4月下旬に行われたサークルのコンパに出席した時だ。
やったこともないテニスサークルに入ったのは、たぶん、ちょっと、浮かれてたから。
「ごめん、遅くなった」
そう言って居酒屋の個室に現れた彼は、リアルに王子様だった。
一年の女子はみんな揃って息を呑んで彼に見入ったのが判る、私も例外ではなかった。
痩身の長身、緩やかなウェーブの猫っ毛、甘い顔立ち……神様が一生懸命かっこいい男性を作ろうと頑張った結果がここにいるような気がする。
きちんとスーツを着こなした姿は、社会人にも見えるけれど。
「本当、遅いわあ!」
四年の女性――平田先輩が声を上げた。
「もう終わりやん!」
「ごめん、ごめん。予想外に長引いちゃったんだ」
「しゃあないなぁ、来ただけ褒めてやらんとなー。ニ次会は行くやろぉ?」
「うん」
彼は人懐っこい笑みで答える。
「お詫びに付きあうよ」
二年生以上の女子が喜んだ、どうやら在校生らしい、そしていつもはニ次会には参加しない人なんだろうと想像できた。
平田先輩が、咳ばらいをひとつして、彼の紹介を始める。
「彼は、経済学部の岩崎真くん! あの岩崎財閥の跡取りや! おじいさまの仕事の手伝いで来ないことも多いけど、みんなよろしくね!」
意気揚々と宣言した、一年生の何人かが「ええ!」とか「おお」とか驚いている。どうやら地元では有名なのね。
「財閥じゃないよ」
彼──岩崎先輩は困ったように言う。
「似たようなもんやない」
平田先輩は媚びを売るように答えた。
私は「おお」と言っていた一年の中本さんに質問する。
「岩崎財閥って?」
「ええ!? 知らんのん!? さすがに東京まではその名は届かないん!?」
「うん……知らない」
そんなに有名なのか。
「京都の駅前にも所有のビルやホテルがあるよぉ。他にも市内にいくつもビルを持ってて、東山にある結婚式場も運営しとるの!」
鼻息も荒く教えてくれた。
なるほど、お金持ちなのか。そのうえこの容姿……そりゃ女子が放っておかないわ。
最初のコメントを投稿しよう!