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「そんなもん、捨てちまえ」
真歩が吐き捨てる。
「んー、でも花に罪はないし。こんなすごいのもらったことないし」
裕子は花束を拾い上げ、花に顔を埋めた、芳醇な薔薇の香りが鼻腔を満たす。
「真歩はそんな贈り物してくれないしな」
良の言葉に真歩は小さく舌打ちする。
「欲しけりゃいくらでもくれてやる」
「いくらでもは要らないわ」
裕子は呆れた様子で答える、そんな姿を見て、花に囲まれた裕子も悪くないとは思うがそれを口に出すような男ではなかった。
「せっかくだから飾ろうか。花瓶、どこかな」
良の優しい言葉に裕子はうなずく。
「納戸にいくつかあったと思いますけど、さすがにこんなには飾れないかも」
「確かに。でも改めて花瓶を買ってくるのもなんだね。無農薬ならジャムにするとかシロップにするとかあるけど、花屋さんのじゃ怪しいから口に入れるものはやめて、ドライフラワーにでもしようか。ちょっと手間かけてポプリとか」
「ポプリ! それがいいです!」
女っ気がない裕子でもそれくらいは知っている、小さな袋などに入れて香りを楽しむ方が嬉しかった。
「じゃあ、きれいなものは活けようか。入らなかった分は花びらをほぐして……おい、真歩も手伝えよ」
は?と怒ったように声を上げながらも、リビングにビニールを広げてその作業を裕子と二人で始めた。その間に良は途中だった料理の続きをする。
午後の穏やかな時間が戻っていた。
*
数日後、良は及川が楠組の者に掴まり十分な制裁を受けたと耳にした。
だが、それは真歩と裕子に知らせるまでもないだろう、もう関わることのない相手だ。これに懲りて、及川がおとなしくなることを祈るだけだ。
※もしよろしければ(⌒∇⌒)
『金の太陽 銀の月』https://estar.jp/novels/24737893
(注:長いです、派生もいっぱいあります)
終
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