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「岩崎」
すぐに男性教諭が寄ってきた。
「佐伯先生」
驚いたような声を上げて、岩﨑さんは最敬礼で頭を下げた。
「いらしてたんですか」
「岩崎が俺の後釜になるって聞いてな、その雄姿を見たかったし、引き継ぎも頼まれて」
「後釜って」
岩崎さんがにこりと微笑む、わ、可愛い! 対して佐伯先生は寂しそうに微笑んだ。
「まあ、俺は暇人だし気にすんな。岩崎なら安心だよ、英語もテニスも教え方がうまいから──ああ、上山相手みたいなスパルタはやめてくれよ」
「あいつのは、まあ……」
岩﨑さんが恥ずかし気に頬を掻く、上山ってさっきも出ていた名前だな──誰なんだろう。暇人だし、の理由はのちに聞いた、実家の家業を継ぐために退職されたのだという。その後任で岩崎さんは名指しでお願いされたなんて、ちょっと羨ましい。
そして飯島先生が私たちを全体に紹介してくれ、教科の先生を呼んだ。
「音楽科の山本先生です」
飯島先生の紹介でやってきたのは、よいしょと声をかけて歩く年配の女性だった、こちらも退職されるけれど、定年退職だ。
「地理の戸崎先生です」
こちらは若い先生だった、中野先生に「よっ」と挨拶をして職員室を出て行く。
「俺たちも行こうか、まずテニス部の方を説明しよう。勝手知ったるだろうけど」
佐伯先生に肩を叩かれ、岩﨑先生ははいと元気に返事をして出て行った。
「私たちも音楽室に行きましょうか、まずは鍵を」
職員室に入って行く山本先生について行く、中ほどの壁にある鍵を納めるボックスを開き、ここよと教えてくれた。
そして職員室を出るとエレベーターへ向かう、8階建ての校舎にはエレベーターが2基もあった、もちろん平素は生徒は使えないものだ。
乗り込んだエレベーターは6階で止まった、真正面は明り取りの吹き抜けがある、そこに面して廊下がありその外側に教室が並んでいる。大きな学校だな。
「まずは教室を見ましょうか」
準備室を通り越した先にあるドアを開ける。
「そうねえ、例年50人くらいが選択してくれるわねえ、もう少し少ないほうがありがたいんだけど」
高等部になると選択科目だ。美術、書写の三つから選ぶのだ、美術はさらに絵画、陶芸、工作と分かれているという。
確かに50人は多いな……大学まである星林栄和学院は8割から9割は内部進学すると聞いている、だから受験に必要ない科目でも選ぶ人は多いんだ。
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