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☆
サークルのおかげで楽しキャンパスライフを──とは、ならなかった。
そもそもテニスすら初心者の私は完全なる足手まとい、主に見学する事になる。
なにより岩崎先輩に会えることを期待していたのに、その姿はまったく見なかった。サークルはもちろん、校内でも──学部も違うから当然なんだけど。先輩は経済学部、私は文学部だ。
なんか、ちょっと、期待外れだ。ううん、私は勉強一筋でやってきたじゃない、それはまだまだ続くんだ!
☆
そうして大型連休も終えたある日の夕方、大学内の図書館でようやくその姿を見つけた。
(わ。かっこいい……)
分厚い本を三冊も机に置いて書き物をしている岩崎先輩を見つけた。その真剣な横顔に見とれてしまう。
(声かけたいけど……邪魔しちゃ悪いよね)
でももうちょっとだけ、その姿を焼き付けたいなあ、なんて見つめてしまった時。
不意に顔を上げた岩崎先輩はしっかりこちらを見ていて、目がばっちり合ってしまった。
(げげっ!)
私は慌てて目を反らそうとした、でも岩崎先輩の笑顔にまたもや釘付けになる。
「こんにちは」
言われて私も小さな声で「こんにちは」と返した。
それで離れようとしたんだけど、岩崎先輩がおいでおいでと言うように手を振る、私はおずおずと近づいた。
「香織さん」
確認するように呼ばれた、どきっとしてしまう。
「はい、お久しぶりです、あのお勉強ですか?」
私は動揺を隠したくて、すぐに言った。
「うん、卒論の資料集め」
「あ、そうですよね……」
そっか。四年生だもんな、もう卒業なんだ……。せっかく出会えたのに、恋だの愛だの自覚する前にお別れすることになるのか。
「香織さん」
意識が飛んでいたのを、呼び戻された。
「はい」
「香織さんも勉強?」
「いえ、なんか時間つぶしになりそうな本はないかと思って……」
「本、好きなんだ?」
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