#22 散る恋(小説家×リーマン)※金銀スピンオフ

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昭和の中頃にできた木造平屋の一軒家──元は3LDKだったが、改装して今は2LDKだ。床面積は30坪という広さがありながら5万円という破格の賃料で借りられているのは、風が強い日は揺れを感じるほどの物件だからだ。しかし私は雰囲気が気に入り、好んで住まいを構えて6年になる。 「……ここに住んでるのか……?」 鍵を開ける私の背で彼が戸惑った声を上げる。 「ああ、お化け屋敷じゃない。中はそれなりにきれいにしたよ」 内側だけはリフォームし、台所も新しいものに変えた。 笑顔で彼を招き入れた、玄関も昔ながら土間で、上がり框はとても高い、そこを先に上がり居間に明かりを灯す。 「へえ……まるで本屋か、図書館だ」 ぐるりと室内を見回す彼に、私は微笑むしかない。 そう壁という壁は本棚になっている、床から天井まで、窓以外すべてだ。当然重さは半端ないため、床を補強してこしらえた。初めは3LDKの一室のみを同様にしたが、リビングでくつろいで時にふと読みたくなったらその部屋まで取りに行くのが面倒になった。その部屋に椅子なりソファーなりを置くのも面倒だった、お茶を片手にそこまで行くのも面倒で、リビングがこうなってしまったのだ。 本棚を作るついでに居室のひとつと繋げたので、広くなったリビングの壁面が全て本棚だ、確かに図書館だろう。仕事のエリアもリビングの片隅にある、ますます本を読むには便利な環境になっていた。 「ベッドは奥だ、使ってくれていい」 一番狭い居室にベッドを置いた、そこだけはシンプルにベッドしかなく眠るための部屋だ。 「横になるなら風呂くらい入りたいか。風呂をためている時間はもったいないな、シャワーくらい浴びるならどうぞ」 風呂場に案内しようとしたが、彼はそれはいいと断った。 「始発まで2時間くらいでしょ、眠ったら起きないかも。むしろこれだけ本がるならどれか読ませてもらっていい? それで時間を潰せる」 「どうぞご自由に。コーヒーでも淹れよう」 生憎インスタントだが、電気ケトルでお湯を沸かし始める。 「ありがとう、あなたは眠っててくれていいですよ、夜遅くまでお付き合い、ありがとうございました」 「いやまあ、こちらこそありがとうだな、いい気分転換になった。私はまだ仕事があるから」 「お仕事? なにを?」 聞かれたが私は口ごもる──ちょうど彼が拙著が並ぶ棚の前にいる、仕事を聞かれ、名前を問われたら嫌だと思った。まあ偽名を名乗ればいいのだろうが。
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