#22 散る恋(小説家×リーマン)※金銀スピンオフ

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☆ やがて私は一人の男児を産んだ。 生まれながらにして父がいない子──名前はせめて君は愛情あふれる人生を歩んで欲しいと『愛』という文字を選んだ。男子だ、『めぐむ』と読むようにした。 だが私の願いは虚しく、君は捧げる愛に生きた。それも私の子らしくてよいか。 近所の公園で出会った少女がいた。おもちゃや動画にも興味を示さなかった愛が、珍しく自ら歩み寄り名を聞き、以来その公園によく行きたがり、幼稚園も同じところがいいと訴えるほどだった。 なるほどなるほど、早くも想い人か、ませててよいなどと思ったが、それは完全に愛の片思いで終わるのは、ずっと後の話だ。 彼との文通は、しばらくは続いていた。だが出産、育児と忙しくなったころに私から送ることなくなるとフェードアウトするように終わっていた。 それでいい。あなたはあなたの人生を歩むべきだ。ほんの僅かに交差してしまった私たちは、ここでまた別れて進んでいく。 そう、思っていたのに──彼は再度現れた。 愛が片思いをする少女には年が離れた兄がいた。その兄が愛も一緒に遊びによく連れ出してくれた。その日もそうだった、夕方近くになり愛を家まで送り届けてくれた時、彼が遠くから見ているのを見つけた。 久々に来たのか、家を訪ねないまでもよく来ていたのかは判らない。でも私に会う理由はない──来るな、と視線に込めてみたけれど、彼の引きつった顔が見えた。 なぜそんな──ああ、少女の兄を特別な関係と思ったか。兄は中学生だが大柄なほうだ。その誤解はむしろありがたい、若い男を連れ込んでいると思ってくれたらいい。 「──少し上がって行ったら?」 言ったが兄はいえいえと断る、今度は少女に声をかけた。 「裕子(ゆうこ)ちゃん、お菓子、食べていくか?」 言えばにこりとかわいい笑みを浮かべ「うん」と答える、よしよしと三人を招き入れた。ご丁寧に兄の背に手をかけてまで。 ドアを閉める時彼の姿を確認する。引きつった顔のまま踵を返す、その背を見送った──これでいい、彼はもう来ないだろう、寂しさはなかった、だって私はもう終わっていた、あなたももう終わりにして。 私にはあなたがくれた命がある、それだけで十分。 あなたはあなたの人生を。 どうぞ、お幸せに。 終
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