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呼ばれたのは判ったけど、誰の事かと思った。先輩は真だから。でも目の前の岩崎先輩が笑顔で顔を上げて、私の背後を見た。
「おじいちゃん」
え!? おじいちゃん!?
私は慌ててそちらに目を向けた。和服姿の老人が立って微笑んでいる。おじいちゃん……確かに、少し先輩の面影があるかも。
「珍しいな、女の子と一緒だなんて」
優しい笑顔で言われた。私は恥ずかしくて、座ったまま頭を下げる。
「大学の後輩なんだ」
そう言って紹介してくれた、そうか、後輩、か……わずかに感じた淋しさは押し隠す。
「そうか、シンをよろしくね」
言われて、私は慌てて立ち上がり会釈した。すると岩崎先輩も立ち上がる、え、嘘、一緒に挨拶をしてくれるの?と思ったら違った。
岩崎先輩のおじいちゃんは、数人の背広姿の男性たちと一緒にいた、その人達に挨拶をしていた。その人たちも先輩に声をかけ挨拶し、世間話的な話まで……おじいちゃんの仕事の手伝いをしていると言っていた、だから知り合いなのだと判る。
皆で別れの挨拶をしおじいちゃん達が店の出入り口に向かうと、奥から店員がやってきてドアを開けた。え、カフェでそんな待遇って、まさか……。
「……このお店、岩崎先輩のお宅で経営されているところなんですか?」
言うと、先輩は微笑んだ。
「違うよ、よく利用させてもらってるけど。いきなり身内のお店に誘うのは、僕が嫌だな」
そうなんだ……え、ってことは、この手のお店もやってらっしゃるってことかな。
はあ。
改めて判った、つくづく住む世界が違う人だ。イケメンで大企業のお金持ち。なんでこんな人とお茶してるんだろう?
なんだか急にそわそわしてしまう。
「おじいちゃんがいたのは誤算だったけどね」
誤算、か。知られたくなかったのかな……。
「そんなことないよ」
言われてびっくりした、やだ、私、口に出てた?
「あー、ごめん、気にしないで。ねえ、まだゆっくりできる? よかったら夕飯も一緒に」
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