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☆
寮の名前を聞かれ、時間を指定された。
その5分前に岩崎先輩はバイクで颯爽と現れる。
ズボンにしてね、と言われたのが判った、バイクででかけるからか。バイクに詳しくはないけれど、ZZR14と書いてある……1400ccということだよね……大きいな、タイヤ太。
先輩は挨拶をしながらシートに座ったままスタンドを立てて、革製のグローブを外す。
「はい」
後部座席にネットで留めていたヘルメットを渡してくれる、顎までは覆われていないジェットタイプと呼ばれるものだ。
「祖母のだけど」
「え、おばあさま、バイク乗るんですか?」
何歳か知らないけれど、それって、ちょっとかっこいい!
「うん、昔はこんな型のをガンガン乗り回してたみたいけど、今はハーレーダビッドソンでゆったり楽しんでるよ」
先輩はオイルタンクを撫でて微笑んだ、といっても先輩は口を覆うタイプのヘルメットだ、口元は見えないのが残念。
ヘルメットを被ろうとした時、周りがざわついているのが判った、上から落ちてくる声が僅かに聞こえる。岩崎さんじゃない?とか、あの子なんなの?とか、そんな言葉だ。
違う、違う! 嫌がる先輩に迫って私が無理矢理誘ったとかじゃないよ!
思わずヘルメットを被る手が止まった、と目の前に先輩の顔が。きょとんとした顔で私を覗き込んでいる。
どうしよう、やっぱやめますっていおうかな、と思ったのに、先輩の手がぽんっと私の頭頂部を叩き、ヘルメットはすぽっと頭部に収まった、う、断るタイミングを逸した。
「きつくない?」
「へーき、です」
更には顎に指を当てられ僅かに上を向かせられる。ドクンと跳ね上がる心臓に気を取られている間に、顎の留め具をはめられた。
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