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☆
5月、行楽シーズンの休日の京都市内はどこもかしこも込んでいる。
そこを先輩のバイクがするすると抜けていくのは、ちょっと優越感だ。有名な神社仏閣は車上から見た。そして先輩がバイクを停めたのは、市街にあるのにひっそりとしたお寺だった、観光地化されていないんだろう。ガイドブックにも載っていない場所でも、丁寧に手入れされた庭や社は見ごたえがあった。
そして何処へ行っても出迎えてくれる人が歓迎してくれる、先輩の有名具合が判った。
予約でもしているのかと聞いたけれど、そういう訳ではないらしい。それはお昼ご飯に入ったレストランでもそうだった。
更には夕飯も──夕飯というには少し早いと思える時間に行ったお店で。
和風の古くて立派なお屋敷、看板はないけれど暖簾がかかっているから食事処と判るようなお店だ。どこからどう見ても高級料亭……私のような小娘が来るような店ではない。長いアプローチには小川まで流れている──その奥にある引き戸を開け先輩は「ごめんください」と声をかけた。
「まあまあ、真はん!」
飛び出してきた女性店員が最敬礼の会釈で挨拶をする。
「いらはるなら、電話の1本くらいおくれやす!」
「ごめんなさい、気楽な観光だったから時間に拘束されたくなくて」
岩崎先輩が明るく答える、すると女性の目が私に注がれ、にこりと微笑まれた。いやいや、そんな目で見られても……私は小さく頭を下げてから、そっと先輩の背に隠れる。
「バイクで来たんだ、駐車場の脇に停めちゃったけど大丈夫ですか?」
「かましません、邪魔言われたらお知らせします」
「お願いします、席、空いてますか」
「空いてなくても空けます! いえいえ、空いとりますえ」
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