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「となれば、成瀬の夏菜子さんとは結婚はできん」
成瀬とは地名だ。一族はみな水無川の姓を名乗る、区別は地名で行われた。他に矢部、鴨居となる。ちなみに本家があるのは橋本だ。
「夏菜子さん、こんなことになって済まなかった」
この場では一言だが、今日まで散々話し合っている。元より夏菜子が生まれた時から決まっていた婚約だ、既に家族同然の付き合いがあった。だからこのまま娘として迎え入れるのも構わない、本家から嫁に出すつもりがあることを伝えた、あるいは完全に自由になるのもいいだろうと。
夏菜子は今しばらく考えたいと全てを保留している。夏菜子からすれば、未亡人の気分だ、次の行動に移すのには時間がかかりそうだった。
「しかるに、鈴に婿を取らねばならぬが」
明宏は一瞥してから、侑斗を視界に収めた。
「同じ成瀬から、侑斗さん、あなたにしたい」
「えええ⁉」
侑斗はとびきり大きな声で反応した、鈴でさえ初めて聞かされた。ただ大きく目を見開くばかりである。
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