見えない障害

5/10
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 二つ目の症状に、がある。物事を手順通りに進められないのだ。退院したての頃、家事をすることがリハビリだったそうだ。  しかし上手くできない。調味料が何処に在るのか分からない。冷蔵庫に何の食材が入っているのか分からない。冷蔵庫の扉を閉めた瞬間、何が入っていたか忘れてしまう。  過去に作ったことのあるメニューで、その材料が目の前にあれば作ることができた。ところが、病前のに比べると明らかに何か違う。  食材の宅配サービスもやってみた。しかし、料理手順書通りに進められない。  ①鍋に湯を沸かす、  ②野菜を切る、  ③鶏肉を切る、  ④……。  母にはこれが、超難解なのだ。何が解らないのか分からないが、兎に角理解できないらしい。これが遂行機能障害である。  洗濯や、掃除機、整理整頓、どれも人の何倍も頭を使い、結果はいまいち。  全ての家事をやるようになった父が言っていた。高校生になった今だから、父の言葉の意味がなんとなくわかる。  家事は何よりも頭と技術を使う仕事だと。  母は人が大好きで友達が多く、明るくて、いつも元気な人だった。感受性が強く、精神的な影響を受けやすい性格のため、落ち込むことも良くあった。  また、頭の回転が早く、整理整頓のプロフェッショナルだ。手順の決まった作業なら、家でも職場でも、誰よりも早くこなす、そんな人だった。  と父がたまに教えてくれる。私はまだ何となく覚えているが、当時八歳だった妹は、病前の母の性格を全く覚えていないと、本人が言っていた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!