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二つ目の症状に、遂行機能障害がある。物事を手順通りに進められないのだ。退院したての頃、家事をすることがリハビリだったそうだ。
しかし上手くできない。調味料が何処に在るのか分からない。冷蔵庫に何の食材が入っているのか分からない。冷蔵庫の扉を閉めた瞬間、何が入っていたか忘れてしまう。
過去に作ったことのあるメニューで、その材料が目の前にあれば作ることができた。ところが、病前の出来に比べると明らかに何か違う。
食材の宅配サービスもやってみた。しかし、料理手順書通りに進められない。
①鍋に湯を沸かす、
②野菜を切る、
③鶏肉を切る、
④……。
母にはこれが、超難解なのだ。何が解らないのか分からないが、兎に角理解できないらしい。これが遂行機能障害である。
洗濯や、掃除機、整理整頓、どれも人の何倍も頭を使い、結果はいまいち。
全ての家事をやるようになった父が言っていた。高校生になった今だから、父の言葉の意味がなんとなくわかる。
家事は何よりも頭と技術を使う仕事だと。
母は人が大好きで友達が多く、明るくて、いつも元気な人だった。感受性が強く、精神的な影響を受けやすい性格のため、落ち込むことも良くあった。
また、頭の回転が早く、整理整頓のプロフェッショナルだ。手順の決まった作業なら、家でも職場でも、誰よりも早くこなす、そんな人だった。
と父がたまに教えてくれる。私はまだ何となく覚えているが、当時八歳だった妹は、病前の母の性格を全く覚えていないと、本人が言っていた。
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