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月の光
───それは、風のない静かな夜のこと。
その人は突然にやって来た。
この田舎の民宿には不釣り合いな、洗練された
都会の匂いのする男の人。
まるで映画のワンシーンのようだった。
扉を開けて、キャリーケースを引くその人は背が
高い上に手足が長くて、均衡のとれたスタイルで。
そして今夜の月の光にも負けないくらいの
ブロンド。
一瞬、外国のお客様かと思った。
「予約していた速水ですが。」
言いながら大きなサングラスを外す。
日本の方だったと思うよりも先に息を呑んだ。
なんて綺麗な人───。
長い睫毛に縁取られた、少し色素の薄い瞳が何かを
探すように揺らめいた。
その瞳は私の姿を見つけた瞬間、ピタリと止まる。
そして笑った。
まるで今にも泣き出しそうな顔で。
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