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「東京からわざわざお越し下さってありがとう
ございます。
長旅でお疲れでしょう?
さ、どうぞ。」
お母さんがスリッパを出してあげる。
そこでその人───速水さんはふっと視線を
外した。
...何だったんだろう。今の顔は。
ドクドクと心臓の音が忙しい。
そう言えば、今日の夜に東京から来るお客様が居る
って言ってたっけ。
確か半年も宿泊の予約をとったとかで、珍しい お客様も居るもんだねって話してた。
速水さんはスリッパを履いて軽く頭を下げる。
「ありがとうございます。」
「荷物、お部屋まで運びますね。」
それは私の仕事。
お母さんに促されて、いつものようにキャリー
ケースに手をかけたら、そっと制するように重ね
られた手。
「大丈夫。自分で運ぶから。」
優しい声に思わず顔を上げた。
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