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第4話 スウィートネス―砂上の幸福―
「トリーナの件は、どうなっている?」
遅めの正月休みをドイツで過ごした千川京也は、帰国早々、数紙の新聞に目を通し、自社のサイトをチェックした。
どちらも、休み前に指示したことが、滞りなく実行されている。
「トリーナの中でも、意見が割れている。だが、予定通り今日、記者会見を開く」
「了解。あの人が見つかれば、勝てる自身はあるんだがな」
森川耀太の答えに、千川は表情を変えることなく頷いた。
「まだ、行方が分からないのか」
「ああ、あちこちを転々としているらしい。年末に大阪で見掛けたという情報が入ったが、既に蛻の殻だったそうだ」
森川の問いに、千川は軽く嘆息する。
探している人物の足取りをようやく掴んだと思ったら、いらぬ横槍が入ったのだ。
「ファイス、いやスネークスか」
森川がそう呟くと、千川は硬い表情のまま、頷いた。
彼らが行方を捜しているのは、湯浅輝誠。
今はトリーナ株式会社と名を変えた、湯浅システム株式会社の元社長で、千川のかつての雇い主だ。
湯浅は、C言語やJAVAといったメジャーなプログラミング言語だけでなく、COBOLやアセンブリ言語等にも詳しく、豊富な実務経験がある。社員達もそれぞれ、複数のプログラミング言語に詳しく、新しい技術も、積極的に学んでいた。
千川は、湯浅の知識と経験と人柄、そしてその社風惹かれて、入社を決めた。
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