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女性はその千川の秘書で、津崎歌澄という。
歌澄は、元々社長令嬢であったが、父親が不正の疑いで逮捕され、会社を追われた。その上、会社から多額の損害賠償を請求された。
裁判で有罪が確定し、父親は服役中である。父の会社で事務を担当していた母と歌澄もまた、仕事を続けるわけにはいかず、入社して日の浅い事務員を残して、職を失った。母も歌澄も、父の無実を信じてはいるが、動かぬ証拠の前には、無力であった。
新たな職を探して何社か試験を受けたが、身元調査で父のことが分かると、内定が取り消された。
母は、遠く離れた故郷で清掃の仕事に就いたが、地方での給料など知れている。
歌澄は正社員を諦め、派遣で働き始めた。
しかし、派遣先に父のことが知られ、二年目で契約を打ち切られた。次は一年と経たず切られ、三年続いた会社も、正社員登用時の身元調査で切られた。
そんな時に紹介されたのが、ケルスの営業事務であった。営業事務にしては時給が高く、かなり好条件な案件であった。
ケルスの担当者には、父親のことを正直に話したが、問題にされなかった。
その上、三ヶ月の試用期間が過ぎると、さらに給料の良い正社員への登用試験を勧められた。
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