321人が本棚に入れています
本棚に追加
試験に合格し、晴れて正社員となった歌澄は、今まで通り営業事務の仕事に就くものと思っていたが、千川の独断で秘書に抜擢された。それまで千川に個人秘書は無く、グループ秘書が対応するか、細かい部分は、創業仲間であり、千川の友人である副社長の森川が秘書業務を兼任していたという。
基本給自体は、営業事務と変わらないが、大抵は定時で終わる営業事務と比べ、上司のスケジュールに合わせて勤務する秘書は、勤務時間が不規則で、早出や残業も多い。そのため、あらかじめ職務手当が加算されている上、休日に出勤した場合は、その分の手当も支給される。
賠償金の支払いを課せられている歌澄には、有り難かった。
当初は、千川のスケジュール管理や会場やチケット、車の手配など、通常の秘書業務を滞りなくこなしていた。
しかし、一ヶ月が過ぎ、新たな仕事に慣れて来た頃、千川からプライベートな話があると言われたのだ。
「歌澄、」
千川に名を呼ばれ、歌澄は心臓の鼓動が大きくなるのを感じた。
仕事の時は、「津崎さん」と苗字にさん付けで呼ばれるから、名前を呼ばれたのも、呼び捨てにされたのも、初めてであった。
最初のコメントを投稿しよう!