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事件起きてます
はい、富永絵里です。
お久しぶりです。
情けないことに、誘拐されました。
はぁ…、とため息をつきつつ、シーツも何もかけていない、古びた茶色いベッドのマットレスの上に膝を抱えてちょこんとあたしは座っている。
肩でそろえた黒髪に小柄な体。
仕事へ行く途中だったから、白いブラウスに紺のパンツ、黒いローファーといった出で立ち。
靴履いたままベッドの上ってどうなの?
そんなことを思ってしまうが、だからといってわざわざ靴を脱ぐのも、今の状況からするとおかしな話で。
目線を動かすと、部屋の隅にはショートカットの女の人。
グレーのスーツが女の人の、冷たそうな雰囲気とマッチしている。
……むう。
パンツスタイルなのがすごく似合ってて、こんな状況じゃなければ、素直にかっこいい女の人と思えたんだけど…。
長そうな足を組んで、簡素な丸椅子に座り、無表情。
そして、あたしを監視している。
見た目で判断すると、多分あたしより年上。
三十過ぎか半ばくらいかな。
時計も窓もないこの部屋。
どれぐらいここで膝を抱えて座っているのか。
三十分?
一時間?
二時間?
本当に時間の感覚が無いため、さっぱりわからない。
……いつまでここにいればいいんだろ……
この女の人、話しかければ返事は返ってくるが、会話をする気は無いようで、「うん」「あぁ」といった返事で会話が終了してしまう。
そして、ここはどこかといった事は一切教えてもらえない。
……こんな時、パニックにでもなって騒ぎ立てれたら女の子っぽいのかもしれないけど……
冷静に今の状況を受けとめている自分。
こんな自分が、とてもあたしらしくて、自然と苦笑いが浮かんでしまう。
騒ぎ立てるのは合理的じゃない。
体力と気力のムダ。
身の安全だって、騒いだら保証されないかもしれない。
……いや、多分たけど、騒いでも命まではとらないだろう。
そんな考えに至った根拠となる、誘拐されたときのことを思い返してみる。
………朝、いつも通りに家を出て、電車で二駅。
駅を出て、いつもの通勤路を歩いていく。
職場である喫茶メモリー。
裏通りに面した裏口から建物に入るため、人通りが少なくなるその通りに入ったところで突然声をかけられた。
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