暗闇の中を往くふたり

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 阿倍と甲斐は国際色豊かな宇宙ステーション滞在チームと共に指令(ミッション)に臨む。 宇宙ステーションの管理、保持、無重力下の実験をこなし、地球にある宇宙局にデータを送っていく。光陰矢の如し、瞬く間に199日が経過した。阿倍は憂いを含んだ顔をしながら「アルタレ」の窓より宇宙の暗闇の中、瑠璃色の宝玉のように美しく輝く地球を眺めていると、甲斐は阿倍の肩を叩き声をかけた。 「よ、なにセンチな顔してるんだ?」 「いやぁな、明日にはもうあの大地の上に戻るんだなって」 「明日から地に足のついた生活に戻るのか。俺ら地に足のつかない生活送ってたのにな、無重力の宇宙にいるだけに」 「お、ギャグセンスあるねぇ。そう言う意味もあるんだけどな。もう一つの意味もあるんだ。結婚して地に足のつく生活になるって意味になるな。そうそう、さっき琉和から連絡来たよ」 「明日帰ってくるのに通信まで使ってせっかちだな」 「俺が地球に降りたら、その足で婚姻届出しに役所に行くんだとさ。テレビ局から密着取材の申し込みがあったんだと『阿倍宇宙飛行士、宇宙ステーションからの帰還後即結婚!!(仮題)』って密着番組だ」 「下らないこと考えたな、その局も」 「宇宙局の広報も兼ねてるからな。宇宙局がOK出しちまったんだよ。地球帰還後の身体検査で問題が無ければ即役所にGOだよ」 「俺らも所詮は地に足のつかないリーマンだな。疲れてるって逆らうことも許されない」 「腐るなよ」 「今日が独身最後の日か…… 明日からは琉和とずっと一緒にいるのか。緊張するなぁ、これから他人とずっと一つ屋根の下で暮らすと思うとガクブルだよ」 「おいおい、それが結婚するってことだろ? あばよ、独身貴族。俺はこれからも独身貴族ライフをエンジョイさせてもらうよ」 「こういうこと言うなよ。お前とだったら24時間365日一緒でも緊張の欠片もしねぇのになぁ」 「何気持ち悪いこと言ってんだよ」 「だってそうだったじゃないか。ガキの頃からずーっと一緒で、幼稚園・小学校・中学校・高校・大学・就職先までずっと一緒だったんだぜ? お前のことだったら何だって知ってる」 「俺だってそうだよ」 「お前のことは、家族とか親友だとかそういうものを凌駕した何かだと思ってるよ。恋人だって超えてるぐらいだ」 「でも、お前は琉和と一緒にいる道を選んだ。そういう気持ちはこれから琉和に向けるんだな」 「……わかった」 「これからお前と生きていくのは俺じゃない。わかったな?」 二人は硬い握手を交わした。これまでずっと一緒にいた二人の決別の握手であった。  二人が握手を交わした瞬間、滞在チーム仲間のイワンが無重力の中、ふわぁりと飛びながら現れ声をかけた。 「おーい、船外の部品交換行ってきてくれ~」 「オーケイ、どちらが?」 「二人で行ってきてくれ。二箇所それぞれ離れた場所にあるんだ。なぁに、ちょっとした部品交換だ。すぐに終わる。それと、宇宙局の方からプロモーションのために船外活動中の親友二人のツーショット写真を撮って欲しいとの要望だ。出資者は無理難題を言うもんだぜ、HAHAHA」 「I think too you.(全くだ)」 「I feel with you.(ほんとだよ)」
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