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あれから十年の時が流れた。甲斐は宇宙局局長となり地位を確立し、琉和との間に子を儲け、公私共に輝ける人生を送っていた。だが、甲斐の心は満たされなかった。十年前のあの日、阿倍を宇宙の放浪者とせんがために放り出したあの時よりずっとである。
十年も一緒にいるのにあんなに愛した琉和が他人のように思えてならない。二人の愛の証すらも存在するのにどうも他人に思えてならない。家族団欒の間も他人と一緒にいるみたいに感じ落ち着かないし、鬱陶しくも感じる。阿倍と一緒にいた時はこんなことはなかったのにどうしてなのだろうか。甲斐はこの十年ずっと苛まれていた。
これに耐えることが出来なかった甲斐は離婚を決意。一方的で理由も不鮮明で不条理な離婚で慰謝料も多額であったが、他人と一緒にいるよりはマシだとして喜んで払うのであった。
妻も子も失った甲斐は宇宙局の屋上に出て、夜空を見上げていた。宇宙局は都会の中央にあるせいか、光眩しい大地に星の光は飲み込まれ、星一つない夜空の様相であった。
「あいつも…… こんな暗闇の中、放り出されたんだよな…… 怖かったろうな…… ごめんなぁ…… ごめんなぁ……」
甲斐は自分のことに初めて気がついた。
生まれてからずっと一緒だった阿倍のことが心の底から好きだったのだ。今にして考えてみれば琉和に恋をしたのも、男の阿倍が好きだと言う心に蓋をするための偽りの恋だったのである。アッサリ琉和から身を引いたのも「実際は好きではなかった」故であった。
その阿倍は琉和のものになってしまう。阿倍の横にいたのは俺なのに、いきなり出てきたぽっと出の女に阿倍が持っていかれてしまう。「アルタレ」の長期滞在が終わり、地球に降りた瞬間に阿倍は俺のものから琉和のものになってしまうのだ。これだけは絶対に嫌だ。阿倍が俺の側にいない人生なんか暗闇の中を行くのと変わらない。
現に阿倍のいないこの人生、幸せであったが幸せなんぞ1mmも感じなかった。俺の人生に本当に必要だったのは阿倍だけだ!
琉和でも子供でもない。子供の名前に阿倍の本名を付けたのだが、罪の意識からくる哀れな自己満足に過ぎない。
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