0人が本棚に入れています
本棚に追加
鏡の『異界』は果たしてどこまで広がっているのか、私には想像がつかない。もちろんXにしてもそうであろう。鏡と鏡の隙間をゆっくりと渡り歩きながら、Xは時折視界の隅を動き回る「何か」を追いかける。
どこまでも、どこまでも続いていく、鏡張りの回廊。進んでいる方向も定かではなく、ゆるやかに姿を変え続ける自分自身を映し込みながら、手探りで歩き続ける。その時、また視界にXの動きとは別の動きをするものが横切った。だが、今までよりその影は随分近いのか、今までよりもずっと大きな姿で映りこんだ。
だから、追いかけているのかが「何」なのかが、私にもはっきりわかった。
「X……?」
私が呟いた、次の瞬間。
Xの視界が激しく揺さぶられた。何が起こったのか、と思う間もなくXが左に視線を向ける。Xの目を通してディスプレイに映し出されたのは、X自身――に見える何者か、であった。
何故それがXの鏡像でないとすぐにわかったのかと言えば、Xを見つめる「それ」の表情が、まるで普段のXのそれとは異なっていたからだ。その面に浮かんでいるのは、満面の笑み。晴れやかな笑顔と共に、Xの姿をした「それ」はXに向かって拳を振り上げる。
Xもただ一方的に殴られるだけではない。突き出された拳を片手で受け流し、自分もまた目の前の「それ」に殴りかかろうとする。しかしその一撃はまるで鏡映しのように、一瞬前の自分がそうしたのと同じく受け流されてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!