紅い髪への執着

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紅い髪への執着

 西の国の錬金術師が多くいる国のお城に、その娘は住んでいた。 「お兄様!   私、お兄様のお嫁さんになるわ」  紅い髪の少女がオレンジ色の髪の少年に満面の笑みで言った。それを受けて兄と呼ばれた少年も答える。 「……そうだな、クローネのようなお嫁さんがいてくれたら、きっと幸せだな」  その光景を見ながら、この国の王ギューキは過去のおぞましい光景を思い出していた。 「さぁ、紅い髪の姫を差し出すのだぁ!」  見た目だけは美しく整えられたその姿は昔とは変わらず、無駄にその語尾は伸びていた。  ギューキは昔に比べれば老いたが、色々な意味を待って対峙した相手に薄気味悪さを感じた。 「従うことはできない」  返答を聞くなり、自分が連れてきたそばにいる者の首を()ねて見せる。あまりの速さに声をあげる間も無く、その顔も恐怖を感じていない様子だ。 「すまない……断れるとは思っていなくてね  つい癖でね……感情を抑えようと思うと……  ああ! ああっ! 実に! 実に!  実に残念! 実に、残念だぁ!」  南の王は都合の悪い者を消すことで、財を築いてきた。その片鱗を目にし、西の国の王は冷静さを保つことに気を割いた。  人払いをしておいてよかったと心底思った。自国の人間が八つ当たりで斬られていくのを見ることになるだろう。 「おやおや、おんやぁ? この部屋には  他にも客人がいるのかなぁ」 「流石に貴殿と二人きりと言うのは  危険なのでな」 「ただの腑抜けではないと言うことか  ……まぁ、私もお前とは  そろそろケリを付けたいところだがなぁ」 「貴殿もそろそろ限界ではないのか?」 「だから、譲れと言っているのだぁ」 「世の為を思えば、このまま人命を全うしてもらいたいものだな」  出会った当初、南の王はまだ人間らしい部分を持っていた。少なくとも呪いの黄金が、この世界にもたらされる以前は。 「ギューキよ、笑えな冗談だぁ」 「かつて友人だった者として  私は言っているつもりだが?」 「友人に娘はやれんと……冷たいものだぁ」 「お前の噂を聞けば、どんな人間も  自家から嫁がせようとは思えん」 「交渉決裂かなぁ」 「できると思っていたのか?」 「勿論、思っていたさぁ……」 「お前は相変わらずだな……」 「悲しい、悲しいなあ……  この国の第一王子は、若くして命を落とす。  滅びるのは私の国ではない。  お前の治めるこの国だぁ。  お前の決断がこの国を亡ぼしちゃうなぁ。  悲しい、ああ、悲しいなあ」  ―― どんな受け答えをしただろうか ―― 「滅びの時まで何度でも  私は……この国の呪いを謡おうじゃないかぁ」 「娘一人の命安いとは思わないかぁ?」  ―― 吐き気のするようなやりとりだ ―― 「さぁ、自分の幸せと引き換えに  多くの悲しみを生み出したと知った時  お前の娘はお前の決断を  どう思うだろうなぁ?」 「私は手段は選ばない」 「まぁ、気持ちが変わった時は  遠慮なく連絡をくれたまえ……  西の国のギューキ殿、その気持ちをなぁ」
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