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もう一人の客人
南の王が帰って行ったのを見ると、その部屋に潜んでいた客人は姿を表した。
「まったく気の毒な話だね」
青とも紫とも言える神秘的な髪色の青年は、何も悟らせまいとしているか、腕を体の前で組みながらギューキの方はと歩み寄る。
「知っての通り、南の国王は貪欲だ。
隣国を食べてしまうくらいだからね」
青年の言う通り、隣国の二国は統治するものが機能しなくなり荒れ放題の状態が続いていた。
情勢に詳しくない国からは滅びた国として、噂も広まっている。南の国は情報を扱うのも上手い。迷惑な話、他国が油断する情報を日常的に垂れ流している。
「ねぇ、ギューキ提案なんだけど
僕と契約しない?」
その言葉になつかしさを感じて、ハッとした。
―― この感覚、前にもあったように思う ――
「僕が用意する女の子を
君はその愛しい姫の代わりに育てるんだ」
邪神の提案に乗ってはいけないと言う気持ちと、その提案に縋ってしまいたいと言う気持ちがせめぎ合う。王の表情を読んだのか、さらに言葉を続けて言った。
「邪神である僕がなぜ
一国のお家事情にかかわるか?」
ゴクリと王の喉が鳴る。
「それは言えないな……」
言えないんかーい! とギューキは心の中で叫んでいた。その声はもしかしたら漏れ出ていたかもしれない。
「でも、この娘の幸せは、きっと僕の……
いや……何でもない」
そして、どういうわけか西の国の王は邪神との契約を正式に交わしたのだった。
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