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3
めっちゃ、イケメン!
顔は小さいし、首は太い。切長の瞳にはファサッと長い睫毛がお辞儀をしている。
甘い雰囲気の中にある男らしさ。
この人が恋のお相手?!
「あ、の、あなたの左耳の穴を見……」
その時、私の肉付きのいいお尻に何かが触れた気がした。
やだ!痴漢?
「佐々木!大丈夫か?」
え?この声?
私は右手を握られ、扉を抜けてそのまま、着いた駅に降ろされた。繋がれた手は大きくて、優しくて、温かい。鼓動がドンドコ早く鳴る。
「大丈夫か?」
私を痴漢から助けてくれたのは、同期の高木だった。どうして高木がこの電車に?乗る電車違うよね?
あ、それより、さっきのイケメン!
「高木!ありがとう!じゃあね!」
イケメンを逃すわけには行かない。さっきの電車にまた乗り込まないと!
私は高木の手を離し、駆け出そうとした。
「おい!待て!あいつはお前の相手じゃない!」
「へ?」
「切符を持ってない」
「え?どうして高木が知ってるの?」
どういう事?意味が分からない。
高木は照れ臭そうにしながら、私の顔を見つめて呟いた。
「お前の相手は……俺だ。」
「ふぇ?」
「だ、か、ら、お前の恋の相手は、俺だって言ってるんだ!」
高木はポケットから一枚の紙切れを出し、私の前に見せてきた。
それは私と同じピンク色の切符。
〝恋の片道切符〟。
「えぇーーー?!どうして高木が、同じ色の切符を持ってるの?!」
「一年ぐらい前、彼女に振られた時に貰ったんだよ。恋愛天使に。」
「一年前?」
「うん。この切符の裏見てみろ」
高木の切符の裏には、私の切符と同じ日にちと同じ電車の時刻が書いてあった。
頭がパニックになって、よく理解出来ずにいた。高木が、私の恋の相手?
「この切符貰って、約一年後に恋の相手が現れるんだって待ってた。そしたら、二週間前にお前がその切符の話をしてきたから、びっくりしたよ。同じ日にち、同じ時間の電車だったから」
「うん、うん、」
私は訳が分からないまま、ただ、頷く。
「それで、今日その時間の電車に乗り込んだ。お前が居るかなって思ってたら、変なおやじがお前のお尻を触ろうとしてたから、必死で助けて次の駅で降りたんだ」
「うん、それは、ありがとう。それで?」
「はぁー……お前はほんとにバカだな」
「むかっ!何よ!高木!」
私は高木の頭部目掛けて拳を振り上げたが、その腕を高木にぎゅっと掴まれた。
「なっ?!」
「お前が好きだ」
「はぁ?」
「今日、気付いた。いや、いつからだ?分かんない。俺の恋の相手がお前だって知って嬉しかったんだ」
何、それ?
いつもはそんなに恥ずかしがらないじゃない。
顔も、耳も、真っ赤に染まってるじゃない。
見てるこっちが恥ずかしくなるぐらい。
でも、嬉しい。
高木が私の恋の相手で嬉しい。
「私も、たぶん、高木の事が……好きだったかもしれない」
「だろ?」
私たちは駅のホームで見つめ合い、笑い合った。そして、高木がやたら私の口元を見てきた。
「な、何?」
「恋の相手の目印が、口元にある小さなホクロだったんだよな」
「え?」
高木の顔が急接近。
チュッ!
「なっ?!」
「へぇー、お前こんな所にホクロあったんだな。知らなかった」
私は真っ赤な顔で、また拳を振り上げた。
「ねぇ、じゃあさ、高木の左耳の穴の中のホクロ、確認させてよ?」
「会社帰りに俺んちで耳かきしてくれたら、見せてやるよ」
私は〝恋の両想い切符〟を手に入れた。
end
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